文・前岡大輝(中小企業診断士/中小企業診断士タイムズ編集長)
「中小企業診断士って、結局なにを頼める人なの?」——経営者の方とお話ししていると、よくこう聞かれます。財務も、補助金も、マーケティングも、広報も。カバーする範囲があまりに広く、かえって輪郭がぼやけて見えるのだと思います。
ですが私は、診断士の本当の強みは“枝葉の広さ”そのものではなく、その枝を束ねる「幹」にあると考えています。本稿では、診断士の幹——「ヒアリング力」と「チーム力」を起点に、これからの中小企業診断士が持つべき強みを論じてみたいと思います。
診断士は「枝葉」が日本一広い資格だ
中小企業診断士という資格の特徴を一言で言えば、「守備範囲の広さ」です。
財務・会計、補助金支援といった定番にとどまらず、マーケティング、広報、店舗開発、果ては地域メディアのラジオパーソナリティまで。私の周りを見渡しても、これほど多様な領域で活動している有資格者が集まる資格は、ほかにそう見当たりません。専門領域の広さという点では、士業のなかでも随一だと感じています。
ただ、この広さは諸刃の剣でもあります。範囲が広いということは、裏を返せば「何を頼めばいいのか分からない」ということでもある。冒頭の問いは、まさにこの広さの裏返しなのだと思います。
では「幹」は何か——ヒアリング力とチーム力
枝葉が広いだけでは、ただの「何でも屋」に見えてしまいます。広い枝を支えるしっかりした「幹」があってこそ、その広さは武器になる。では、その幹とは何か。私は二つあると考えています。一つはヒアリング力、もう一つはチーム力です。
まず、ヒアリング力。弁護士であれば法務、税理士であれば税務というように、多くの士業には「この領域の相談を受ける人」という明確な看板があります。一方で診断士は、領域を限定せず、経営に関わることなら何でも聞いていい立場にあります。売上の悩みも、人の悩みも、資金繰りも、まず丸ごと受け止める。この“間口の広さ”そのものが、診断士の入口としての強みだと考えています。
そしてもう一つの幹が、チーム力です。これを説明するには、診断士という資格の制度的な性格に触れる必要があります。
「業務独占がない」という自由
中小企業診断士は、名称独占資格です。つまり「中小企業診断士」という名称を名乗れるのは有資格者だけですが、経営コンサルティングという業務そのものを独占しているわけではありません。業務独占はない——ここが、弁護士や税理士との決定的な違いです。
一見すると「独占業務がないなんて弱いのでは」と思われるかもしれません。けれども私は、独占業務がないことは、むしろ大きな自由だと捉えています。
というのも、独占業務を持つ士業には、その分だけ提携の縛りも強くかかるからです。たとえば弁護士には、無資格者と結託して業務を回し合うこと(いわゆる非弁提携)を禁じるルールがあります。弁護士法は、資格のない者が報酬を得る目的で法律事務を業として行うことを禁じており(弁護士法72条)、違反には罰則も定められています。近年も、無資格の事業者が報酬を得て特定の弁護士を紹介していたとして、弁護士法違反に問われた事例が報じられました。資格の信頼を守るための大切な規制ですが、それは同時に「誰とでも自由に組めるわけではない」という制約でもあります。
その点、診断士には独占業務がありません。けれど、その代わりに誰と組んでもいい自由があります。
むしろ私が強調したいのは、診断士同士でチームを組めることです。診断士は守備範囲が広いぶん、同じ資格を持っていても、財務に強い人、マーケティングに強い人、営業に強い人と、それぞれ得意分野が大きく違います。だからこそ、自分の専門外を相談されても「その分野なら、あの診断士が詳しい」と仲間を頼って解決できる。一人の診断士の背後に、多彩な得意分野を持つ診断士のネットワークがある——これこそが、診断士のチーム力の土台だと私は考えています。
チーム編成ができる診断士は強い
ここまでをまとめると、私の結論はシンプルです。チーム編成ができる診断士は強い。
ここで言うチーム力とは、「何でも自分一人でやること」ではありません。むしろ逆で、「最適なチームを連れてくるコーディネート力」のことです。経営者が抱える課題は、たいてい一つの専門分野では解けません。財務と人事と営業が絡み合っている。それを分解し、誰に何を任せるかを見立て、束ねる。その“扇の要”になれるかどうかが問われます。
では、「チーム編成ができる診断士」とは具体的にどんな人か。私は、次の六つを備えた人だと考えています。
- コーディネート力——課題を分解し、誰に何を振るかを設計できる
- 内部×外部の両輪リソース——自社に複数の手と専門性があり、かつ社外に他士業・専門家の人脈が広い
- 信頼で人を動かせる——「あの人が言うなら」と専門家が動いてくれる関係がある
- 窓口を一本化できる——経営者の「丸投げ」を受け止められる
- 利益をフェアに分配できる——独り占めしないから、チームが続く
- 進行・品質を管理できる——プロジェクトとして最後まで回しきる力(PM力)
この六つは、どれも一朝一夕には身につきません。けれど、独占業務を持たない診断士にとっては、ここでこそ差がつくのだと思います。
まとめ:診断士は「何でも屋」ではなく「扇の要」
中小企業診断士は、何でも屋ではありません。経営課題を分解し、最適解のために自分以外のリソースを活用できる「扇の要」です。枝葉の広さは、ヒアリング力とチーム力という幹があってはじめて、本当の武器になります。
もし経営者の方が「何から手をつけていいか分からない」と感じているなら、まずは診断士に“交通整理”を頼んでみてほしい。一人で全部を抱えるのではなく、課題を分解し、必要な専門家を束ねてくれる存在として——「困ったら、まず診断士に相談」という選択肢を、頭の片隅に置いていただけたらと思います。
※本記事は執筆当時の個人的見解であり、特定の組織の公式見解ではありません。
よくある質問(FAQ)
本コラムの内容をもとに、編集部にてFAQを作成してみました。
- Q1. 中小企業診断士とはどのような資格ですか?
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中小企業診断士は、中小企業の経営課題に対して診断・助言を行う国家資格です(根拠法:中小企業支援法)。財務・会計、マーケティング、人事・組織、ITなど経営全般の知識を体系的に備えた専門家で、経営者の「伴走者」として機能します。日本の企業の99.7%を占める中小企業(出典:中小企業庁「中小企業白書」)を支える、国が認定する専門家です。とりわけ“守備範囲の広さ”が特徴で、経営の入口として分野を問わず幅広く相談できます。
- Q2. 中小企業診断士に「独占業務」はないのに、何を頼めるのですか?
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中小企業診断士は名称独占資格で、業務独占はありません。だからこそ、経営に関わることなら領域を問わず幅広く相談できます。財務・補助金・マーケティング・広報・組織づくりなど、まず課題を丸ごと受け止め、必要に応じて専門家につなぐ「交通整理役」として機能します。
- Q3. 弁護士や税理士と何が違うのですか?
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弁護士(法務)・税理士(税務)には独占業務があり、その分だけ提携などの縛りも強くかかります。一方、診断士には独占業務がないため、特定の専門家を“囲う”ことはできない代わりに、立場の縛りなく最適な専門家を束ねられる自由があります。経営の入口として広く受け止め、適任者につなぐ役割が得意です。
- Q4. 「チーム編成ができる診断士」かどうか、経営者はどう見分ければいいですか?
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一つの目安は、自分一人で抱え込もうとせず「これは○○の専門家を入れましょう」と提案してくれるかどうかです。課題を分解する力、社内外のリソースを持っていること(他士業だけでなく、得意分野の異なる診断士仲間とのつながりも含みます)、窓口を一本化してくれること、そして利益を独占せずフェアにチームを回す姿勢——このあたりが見えると、伴走役として信頼できます。
- Q5. 専門外のことを相談しても大丈夫ですか?
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はい。むしろ「何が専門なのか分からない」段階の相談こそ、診断士の出番です。広く受け止めたうえで、自分で対応できる部分と、専門家を入れるべき部分を切り分けてくれます。

