ほぼ転職みたいな20年で、経営の地図ができた——岡田 寛司さんが語る、会社員キャリアと中小企業診断士の交差点

取材・執筆:前岡大輝(中小企業診断士/中小企業診断士タイムズ編集長)


「半年で合格した、と企業診断(雑誌)の記事に載りましたけど、実際は19年6ヶ月の玉集めをしてたんです」

笑いながら話してくれたのは、NTT西日本で兵庫支店の民間企業向け営業部門を統括する岡田寛司さんだ。
中小企業診断士として副業コンサルティングを行いながら、いずれ自ら経営者になることを見据えている。

SE、セキュリティコンサル、設備投資、人事、経営企画、新規事業立ち上げ——20年間で8つの部署を渡り歩いたキャリアは、一見バラバラに見える。しかし今、その点と点がひとつの線として繋がりつつある。大企業で多様な経験を積んだ中小企業診断士は、経営者にとって頼れる相談相手になり得る。岡田さんの話には、そのことを裏付けるヒントが詰まっていた。

目次

20年間で8部署を渡り歩いた「強制転職」の正体

岡田さんは新卒で現在の会社に入社し、一社で20年以上のキャリアを積んでいる。しかしその実態は、転職を繰り返してきたような多様な経験の連続だった。

「3年に1回ぐらい、ロケーションも変わるし業務も変わる。ジョブローテーションで次世代リーダーを育成していく会社なので、一つの会社なんだけど、ほとんど転職してきたような多様な経験の連続でした。実際、これまでにお世話になった直属の上司だけで15名にのぼります。それぞれのリーダーから異なるマネジメント手法を間近で学べたことは、私にとってかけがえのない財産になっています。」

入社時はSE。その後、セキュリティコンサルチームへ移り、次は設備投資を管理する部署へ。「来年何億円投資しましょう?みたいな設備投資を考える組織」だったという。そこから技術系の現場立ち上げ、人事、経営企画、デジタルデータビジネスの新規事業立ち上げと続いた。

「技術系の部署を渡り歩いてるから、お前技術系の人事できるやろ、ということで携わらせてもらったり。人事やったことあるんだったら次、経営企画みたいなところで組織考えろ、ということをやったり」

当時は戸惑うこともあった。「私は法人営業の世界でやりたい、稼ぐ方にいたいということをずっと言っていました。それでも全然違う設備投資とか人事とか、私をフロントじゃなくてバックヤードの人事部で使うんですか!っていうのも言ったけど」と苦笑する。

なぜ大企業はジョブローテーションをするのか——人事担当のときに分かった「本当の理由」

岡田さんが人事担当になって初めて腑に落ちたことがある。ジョブローテーションの「真の目的」だ。

「会社によって違うと思うんですけど、基本的に日本の大企業は、自分たちの中から社長を作らないといけないんですよ。誰が社長になるかは分からない。だから全員がジョブローテーションという次世代リーダー育成のプロセスを歩んで、その多様な経験のなかでタイミングが合う人が社長になっていく。 」

特に通信など国策と結びついた業界では、外部から経営者を招くことが難しいであろうと容易に想像はつく。 実際「その感覚は確かにある」と岡田さんも言う。

40歳を迎えたころ、岡田さんは自分の立ち位置を冷静に見極めた。「ある程度は選抜に残ったな、と思ってたけど、ちょっと外れたなって思うタイミングがあった。そこで自分の道を考え始めたんです。」

そのとき初めて、20年間の経験を俯瞰して見直した。財務は設備投資で学んだ。営業は法人部門で経験した。組織マネジメントは人事と経営企画で培った。マーケティングの感覚も、デジタル新規事業で磨いた。

「私はお金をもらって経営を任される、経営のプロになろうと思ったんですよね。振り返ると、経営に必要なことは一通り経験させてもらえたなって」

「半年合格」の裏にあった「19年6ヶ月の玉集め」

中小企業診断士を目指したきっかけは、「経営者になりたい」という意志から生まれた具体的な逆算だった。

「一から起業するより、どこかの会社を買いたい、買うか雇われて社長になりたいという気持ちがあった。そうしたときに、会社の目利きができないといけないじゃないですか。調べていくと、中小企業診断士が一番近そうかな、と」

試験科目を調べると、財務・会計、企業経営理論、運営管理、中小企業政策
——ほぼすべてが「経験済み」の分野だった。

「診断士の7科目は、私もほとんど勉強してないんですよ。その真珠の玉が集まってたから。あとはその真珠の玉をネックレスにつなげるだけ、という意味でも短期間で合格したというところなんだと思う」

半年で合格という結果だけ見ると「要領がいい人」に映るかもしれない。
しかし岡田さんはこう言い切る。

「実際は19年6ヶ月の玉集めをしてたんで」と。

ここに、スティーブ・ジョブズが語った「Connecting the dots(点と点をつなぐ)」の考え方と重なるものがある。
過去の経験に意味を与えるのは、未来の自分だ——岡田さんの19年6ヶ月は、まさにその言葉を体現している。

ここで経営者の方に伝えたいことがある。中小企業診断士の資格は、単なる試験合格の証ではない。岡田さんのように大企業で財務・人事・営業・経営企画を横断してきた人物が取得しているケースでは、その資格の裏に膨大な実務経験が詰まっている。「資格持ちのコンサル」ではなく、「大企業で様々な部署を一通り経験してきた人間が、中小企業診断士の資格が示す体系的な知識も持っている」という見方をすると、相談相手としての価値がまったく変わってくる。

「現場を知らないコンサル」にならないために——20年間の苦労が生む「反骨心」

副業コンサルティングを始めて約1年。スポットコンサルのプラットフォームを通じて、岡田さんが自分の「価値の在処」を探ってきた結果、見えてきた3つの柱がある。

DXで業務を効率化する

紙・Excel頼みの作業や非効率な業務を、ITで自動化・省力化する。

生まれた余力を再配置する

効率化で空いた人材を、成長させたい業務へ配置転換する。

営業組織を強化する(セールスイネーブルメント)

再配置した力で営業の「型」をつくり、売上・利益に変える。

「DXで効率化したものを、どう営業組織に置き換えて、営業組織を強くして儲けに変えるか。その一連の流れでコンサルティングをやっていこうかなと思っています」

ただし岡田さんが強調するのは、フレームワークを「念仏のように唱える」コンサルとの違いだ。

「やっぱり現場の実践を伴ったかどうかが大きいと思いますよ。営業の現場とか、通信ケーブルを張る工事の現場の人事調整で眠れないぐらい悩んだし、個人の生活では考えられない金額の投資を押し進めたこともあったりとか。組織再編・配置転換の検討にももちろん関わりました。」

「理論先行じゃない、というふうには思っています。20年間の現場経験があるんで、現場感覚からあんまり離れてないんじゃないかな、と」

さらに、こんな視点も加える。
「よく独立されている方が、起業もしたことないコンサル担当の言葉は響かないって言うことがあると思うんですけど、いやいや、もっとなんか大規模でハードな経験を、会社員だからこそしてるんですよ!っていうのはある」

中小企業では経験できない、部署単位で数億単位規模の予算管理、組織変革、人事施策——それらを大企業という環境で積み上げてきた経験こそが、コンサルとしての差別化になる。経営者の立場から言えば、「大企業出身だから中小企業の現場は分からないだろう」と敬遠するより、「大企業だからこそ経験できたスケールの課題解決を、自社に活かせないか」と考える方が、得られるものははるかに大きい。これが岡田さんの確信だ。

「1000年後、もっと先の未来まで残る企業をつくりたい」——経営者への思い

インタビューの最後、岡田さんは経営者へのメッセージを語った。その言葉には、単なる「売上を上げましょう」を超えた視座があった。

「経営するからには、自己実現の先を見ていただきたいなという気はします」

「短期的な利益ではなく、食の文化をつなげていきましょうとか、地元が発展するようにとか、未来の子どもたちのためにみたいな、地域や未来に貢献できる事業を支援したい。」

岡田さんが目指すのは、M&Aや事業再生の案件を通じて、こうした「社会的意義」を共有できる経営者とともに働くことだ。
「例えば1000年後、いや、もっと先の人類が終わるときにようやく会社も一緒に潰れるぐらいの企業を作りたいな、みたいな。それを目指して活動していきたいなと思います」

現在は診断士としてM&Aや事業再生の案件に少しずつ近づきながら、実績を積み上げている段階だ。「いきなり会社を買ってみます、買ったらわかる、というのもあると思うけど、買う方も売る方も大変なことになるから。やったことあるっていうのは大事で」と、慎重に、しかし確実に前進している。

まとめ:大企業で様々な経験を積んだ中小企業診断士は、経営者の頼れる相談相手になる

岡田さんのキャリアから見えてくるのは、「大企業でのジョブローテーション経験が、経営全体を俯瞰する力を育てる」という事実だ。財務、人事、営業、経営企画——中小企業の経営者が日々格闘している課題のほとんどを、岡田さんはすでに大規模な現場で経験してきた。

経営課題を抱えたとき、「コンサルに頼むほどでもないか」と一人で抱え込んでいる経営者は少なくない。しかし、大企業で様々な経験を積んだ中小企業診断士に相談することは、十分に”アリ”な選択肢だ。フレームワークだけでなく、現場の泥臭さを知っている人間が、経営者の隣に座って一緒に考えてくれる——そういう相談相手を持つことが、経営の質を変えるきっかけになる。

中小企業診断士が企業内でのビジネスライフで集めた実績・スキル・ノウハウが、1本のネックレスになるとき、本当の価値が生まれる。

その価値を、自社の経営に活かしてみてほしい。

岡田 寛司(おかだ ひろし)
NTT西日本兵庫支店 民間企業向け営業部門統括。中小企業診断士。
新卒入社後、SE・セキュリティコンサル・設備投資・人事・経営企画・新規事業立ち上げなど8部署以上を経験。DXによる業務効率化、人材再配置、組織営業強化の3領域でスポットコンサルティングを行いながら、M&A・事業再生領域への参画を目指している。

※本記事の内容は、取材当時の個人の見解であり、所属する組織の公式見解ではありません。 

中小企業経営者が診断士に相談できる3つの場面——明日使えるチェックリスト

岡田さんのインタビューを踏まえ、「どんなときに中小企業診断士に相談すればいいのか」を編集部にて具体的にまとめました。

場面1:業務のムダ・非効率を感じているとき
  • 紙やExcel頼みの作業が多く、どこから手をつければいいかわからない
  • ITツールを導入したいが、自社に本当に合うものを見極められない
  • 「DXが必要」と言われるが、具体的に何をすればいいかわからない
場面2:人手不足・人材の配置に悩んでいるとき
  • 採用以外に、人手不足を解消する打ち手が思いつかない
  • 効率化で生まれた余力を、どの業務に振り向ければいいかわからない
  • 部署ごとの業務量の偏りを、配置転換で解消したい
場面3:営業が属人化し、伸び悩んでいるとき
  • 売れる営業とそうでない営業の差が大きく、ノウハウが個人に偏っている
  • 営業の「型」や仕組みをつくりたいが、進め方がわからない
  • 効率化で生まれた余力を、売上・利益に変える流れをつくりたい

よくある質問(FAQ)

岡田さんのインタビューを踏まえた、経営者に向けた質疑応答を編集部にて具体的にまとめました。

Q1. 中小企業診断士とはどのような資格ですか?

中小企業診断士は、中小企業の経営課題に対して診断・助言を行う国家資格です(根拠法:中小企業支援法)。財務・会計、マーケティング、人事・組織、ITなど、経営に必要な幅広い知識を体系的に身につけた専門家で、経営者の「伴走者」として機能します。日本の企業の99.7%を占める中小企業(出典:中小企業庁「2023年版中小企業白書」)を支援する専門家として、国が認定しています。

Q2. 大企業で複数の部署を経験した中小企業診断士に相談すると、どんなメリットがありますか?

大企業のジョブローテーションを経た診断士は、財務・人事・営業・経営企画・IT・新規事業など、経営の各領域を実務として横断的に経験しています。岡田さんのように20年間で複数の部署を渡り歩いた人材は、中小企業の経営者が直面する課題の多くを、すでに大規模な現場で経験済みです。フレームワークの知識だけでなく、現場の実践に裏打ちされた具体的なアドバイスが期待できる点が、大きなメリットです。

Q3. DX(IT活用)や営業組織の強化も、中小企業診断士に相談できるのですか?

はい。中小企業診断士の支援領域は、財務や事業計画にとどまりません。たとえばITやデジタル領域の実務経験を持つ診断士であれば、DXによる業務効率化、効率化で生まれた人材の再配置、営業組織の強化(セールスイネーブルメント)という一連の流れまで相談できます。「効率化で生まれた余力を、どう売上・利益に変えるか」まで見据えた支援を受けられるのが、実務経験豊富な診断士に相談する強みです。

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この記事を書いた人

前岡 大輝のアバター 前岡 大輝 中小企業診断士タイムズ編集長

2015年にシナジーマーケティングへ新卒入社。関西・東海エリアを中心に、電鉄業界、印刷業界向けの代理店営業、教育、人材、中食業界をはじめとしたさまざまな業界のCRM案件に携わり、お客様のWebマーケティング成果向上に貢献。2020年より金融機関(地方銀行・信用金庫)を対象にしたセールスおよびデジタルマーケティングのコンサルティングを担当し、2025年4月よりハッピーPR株式会社の代表取締役社長に就任。

現在は今まで培ってきたマーケティングスキルと、中小企業診断士としてのスキルを組み合わせ、関西・スタートアップを中心とした企業に向けた広報・PR活動の支援を行っている。

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